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神戸家庭裁判所 昭和39年(家)273号 審判

申立人 根本美男(仮名)

右法定代理人親権者母 根本久子(仮名)

相手方 大浜俊男(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、即時金四万二、〇〇〇円を支払うほか、昭和四一年八月以降昭和四三年二月まで一ヵ月金三、〇〇〇円宛を毎月末日限り神戸家庭裁判所に寄託して支払え。

理由

申立人は「相手方は申立人に対し、三七万五〇〇円および昭和三八年七月以降申立人が成年に達するまで一ヵ月七、五〇〇円宛を支払え」と調停を求め、事件の実情として

一、申立人は母根本久子と相手方との長男(ひとり子)として昭和二三年二月三日に生まれたが、両親は昭和二五年一二月二二日協議離婚し、申立人は親権者となつた母久子に養育せられている。

二、申立人は義務教育終了後昭和三八年四月○○商業高等学校に入学した。申立人の生活および教育に要する費用は、昭和二六年五月から同三四年三月までは毎月五、〇〇〇円、昭和三四年四月から同三八年三月までは毎月七、〇〇〇円、昭和三八年四月以降は毎月一万五、〇〇〇円である。

三、母久子は、昭和二五年五月頃からすし店に勤め、今日まで上記費用を負担してきているが、母の収入だけでは不足する。相手方は○○○汽船に勤務し、相当の給料を得ているが、これまで申立人の養育料を全く負担していない。

しかし、相手方は父として申立人の養育のため、少くも上記費用の半額は分担するのが相当である。

よつて相手方に対し、申立人に必要な上記費用のうち、母久子のみで負担している昭和二八年四月以降昭和三八年六月までの上記割合による金額合計七四万一、〇〇〇円の半額三七万五〇〇円および本件を申し立てた昭和三八年七月以降申立人が成年に達する月まで一ヵ月金七、五〇〇円の割合による金員の支払を求める」というのである。

相手方は船員の関係もあり、第一、二回の調停期日に出頭したのみであつたので、昭和三九年二月一八日調停は不成立となり、審判に移行した。

(当裁判所の判断)

根本久子の供述によると、申立にかかる事実のほか、申立人は高校卒業後昭和四一年四月○○学院大学経済学部(大阪市)に入学したことが認められる。申立人は、学生で職業を持たず、資産収入もないから、その両親が各資力その他の状況に応じて生活費を支弁して扶養する必要がある。

そして根本久子の供述によると、本件申立のあつた昭和三八年七月以降の申立人の生活費は一ヵ月一万五、五〇〇円程度であること、母久子の収入は昭和四一年三月頃までは月額二万五、〇〇〇円位、同年四月以降は三万二、〇〇〇円位であることが認められる。

つぎに相手方の状況であるが、○○○汽船株式会社からの各回答書、家庭裁判所調査官岡村三四司の調査報告書によると、相手方は、○○○汽船に籍をおく二等機関士で、その手取収入(年末その他の諸手当を含む)は、昭和三七年の平均月額約六万円、昭和三八年度約三万一、〇〇〇円(六ヵ月間下船待機)、昭和三九年度約五万一、〇〇〇円、昭和四〇年度約五万五、〇〇〇円である。しかし、大浜京子の供述と住民票の記載によると、相手方には、妻京子とその間の長女花(九歳)のほか妻の父(七八歳)、同母(七一歳)と相手方の兄進(六一歳)が同世帯におり、義父母は厚生年金年額四万円のほかに収入なく、実兄進は心神に故障があつて独立した生活能力に欠けていること、そして相手方夫婦以外に扶養能力を持つ親族がいないため、同人らの生活費も相手方の収入から支弁しなければならないことが認められ、これらを控除した相手方の余力は、一ヵ月三、〇〇〇円程度にとどまるものと認める。

これら双方の金銭的事情に、申立人と相手方とが往来も文通もしていないことその他双方の家庭事情を考慮するとき、申立人の扶養のため必要な月額一万五、五〇〇円のうち三、〇〇〇円を相手方が分担し、その余は母久子が負担するようにするのが相当である。相手方に対し、単純に平等の割合による負担を求める申立人の請求は適当でない。さらに申立人は、本件申立以前に母久子から扶養を受けた金額の半分についても相手方に負担を求めているが、申立人は母久子により、すでに現実の扶養を受けてきたものであるから、母久子が負担した費用について、両親間の法律関係が生じているとしても、申立人自身の扶養の必要性は消滅している。したがつて、本件申立以前の分について扶養料の支払を求める部分は理由がない。

一方、相手方は、その妻京子を通じて、申立人が高校卒業以後は扶養できないかのような意向を示しているが、相手方が、申立人の母久子と離婚以来申立人の扶養について、ほとんど何の負担もしていないことを考えれば、申立人がせめて満二〇歳に達するまでは上記程度の扶養はしてよい。この程度の負担の故に申立人の進学を拒否すべき理由はない。

結局相手方は申立人に対して、本件申立があつた昭和三八年七月以降同人が成年に達する月まで一ヵ月三、〇〇〇円宛を各その月の末日限り支払つて扶養を分担する義務がある。もつとも相手方は昭和三九年五月二一日付審判前の仮の処分により、同月以降昭和四一年三月まで毎月三、〇〇〇円宛を当裁判所に寄託して申立人に支払つているから、上記金額からすでに支払つたものを控除した金額を支払えばよいことになる。しかし、昭和三八年七月分から昭和三九年四月分までの三万円、昭和四一年四月以降七月分までの一万二、〇〇〇円合計四万二、〇〇〇円は期限が経過しているのに未払いである。よつて相手方は申立人に対しこの四万二、〇〇〇円を即時支払うほか、昭和四一年八月以降申立人が成年に達する昭和四三年二月までは毎月三、〇〇〇円宛を各その月の末日限り、当裁判所に寄託して支払う義務がある。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 坂東治)

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